倉敷・美観地区で5月18日、春祭りでみこしとともに街を練り歩くはずの伝統マスコット「素隠居(すいんきょ)」が本来の役割を放棄して倉敷川の観光クルーズを堪能していたことが判明し話題を呼んでいる。
素隠居は、江戸時代から伝わるらっきょうのような形をした「じじ」と「ばば」の面をかぶった男女の集団。春・秋の祭りで、みこしを先導するように街を練り歩き、通りがかる人々の頭を渋うちわでたたくのが本来の役割。このうちわでたたかれた人は賢くなり、健康になると言い伝えられている。面の表情におびえ、泣いたり逃げまわったりする子どもの姿も祭りの風物詩となっている。
この日練り歩いていた素隠居25人のうち6人が、「好奇心」と「観光客へのおもてなしの心」から、倉敷川を約20分で往復する観光クルーズ「くらしき川舟流し」に乗船。ちょうど川沿いを練り歩いていたみこしの担ぎ手たちが「素隠居、仕事せ~(仕事しろ)」とやじを飛ばしたが、素隠居たちは川沿いの観光客に向かって手に持った渋うちわを振り、終始無表情でおもてなしに徹した。
江戸時代、年老いた店の主人が若者に老人の面をかぶらせてみこしの行列に代理参加させたのが素隠居の始まりとされる。大正時代になると、練り歩くみこしに寄ってくる子どもたちの安全確保のため、交通整理の役割も担うように変化してきたという。「そのような歴史的経緯があるので、みこしの担ぎ手から『仕事せ~!』と声が掛かるのも当然」と倉敷素隠居保存会の小田晃弘さん。
当の素隠居たちは無表情のまま「ノーコメント」を貫き、反省していない様子。次回の秋祭りでの動向に注目が集まる。